杭州/こうしゅう/ハンジョウ/HANGZHOU
「郷愁」誘う三国志の古里 西日本新聞/20061020号
東京報道部記者/植田祐一
 
石積みの白壁と歳月に耐えた瓦ぶきの家並み。河原の丸い石を踏み固めた路地の片隅で、近所の人たちがトランプに興じていた。中国・浙江省の省都・杭州から車で一時間半。明や清の時代の街並みが残る「龍門古鎮」は、いまも人々の生活の場である集落をそのまま開放した異色の観光名所だ。

ここに住んでいるのは三国志で有名な呉の国の初代皇帝、孫権の末裔とされる人たち。その証拠に、住民約七千人の九割の姓が「孫」だという。 

集落は水墨画のように質素で静かなたたずまいだった。中心地の通りは幅五mほどだろうか。こぢんまりした雑貨店が数軒あるだけで、観光客向けの土産店や飲食店はまるで見当たらない。地元の人たちがのんびり歩いている様子は、日本の農村のようだ。

案内してくれた地元の女性ガイドによると、集落では現代風の建築物は建てられない。その代わり、自宅の修復などには行政から補助金が出るという。住民の生業は主に農業や、バドミントンラケットのガット(網)張り。暮らし向きは豊かとはいえないが、あくせくしていない。

入り組んだ狭い路地には、そうした飾らない人々の日常があった軒先の日陰では、シャツと短パンのお年寄りが談笑している。ドアのない理髪担をのぞくと、「坊ちゃん刈り」の男の子がはにかんだ。路地に張り付いた家の窓からは、大人たちがマージャンの卓を囲んでいるのが見えた。

脈々と受け継がれてきた一族の歴史も垣間見た。集落の一角には長老たちが重要会議を開く建物があり、孫権の肖像画や家系図を掲げている。「一族には科挙(清代まで続いた官僚登用試験)でトップだった人もいるんですよ」。ガイドの女性が誇らしげに言った。

昔ながらの街並みと人々の素朴な暮らし。猛烈な経済発展が続く中国では、ここはもう「懐かしさ」の対象らしい。競争に疲れた上海や杭州の都会人が、ここに「癒やし」を求めて車を飛ばして来るのだという。日本では「昭和の町」が話題を呼んでいる。中国も「郷愁」が観光資源になる時代を迎えたようだ。
 
 
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